緑影騎士−聖騎士の帰還−

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1.

 それは百年ほど昔の話。
 大陸の彼方にモルタヴィアという王国があった。歴史ある国で豊かに栄えていたが、いつの頃からか政は独裁色を帯び始めた。この地方は水が大変清らかで量も豊富だったのだが、それを王が独占してしまったのだ。国民が水を飲むには重い税を払わなくてはならず、生活に大きな負担となった。
 幾度か国民の反乱はあったのだが、それらはすべて独裁王の自慢の軍隊によって潰されていた。
 それがある日、崩れた。
 反乱を鎮めるために派遣された一個小隊が、たった三人によって壊滅させられたのである。
 度重なる敗北に打ちひしがれていた国民の希望の光とも言えるその三人は、同意する民を率いて新たなる国家を建設した。
 三英雄のひとりの名から名づけられた王国『ジルベール』。
 政に長けた王ジルベール。
 残るふたりの英雄の助けもあって小さいながらも国家として機能し、またよくモルタヴィアの軍勢を退けた。
 黒髪の魔法剣士シルヴィア。
 金色の魔道士アープ。
 魔法文化が遅れていたモルタヴィアは、どこからともなく現れたふたりの魔法使いに敗れたと言っても過言ではなかったであろう。だがジルベール側も鍛えられた軍というものは存在せず、英雄たちの他は民兵であったから決着が着かないまま時が流れていった。

 ジルベール国王が建国から三代目ルークになってから事態は急変した。独裁王モルタヴィアが病に倒れたのである。それは独裁国家としては致命的だった。王・病に倒るの報はそのままモルタヴィア軍の士気に影響したのである。それは長い戦いに疲弊したせいもあろう。モルタヴィアの軍勢は悪化する一方だった。
 そして長い戦いに終止符が打たれる。
 モルタヴィア側の市民が一斉蜂起したのである。密かにジルベールと通じ、機を伺って大きな反乱を起こした。時を同じくして、ジルベールもまたモルタヴィアを襲撃したのである。
 内から外からと襲われたモルタヴィアは、さしもの軍を持ってしてもそれらに対抗し得ることはできなかった。
 ついに城を落とされたモルタヴィアは、独裁王がシルヴィアに討たれる形で幕を閉じた。
 モルタヴィア王族のうち、深く政治に関わっていた者たちはジルベールの手によって処刑されたが、そうでない者たちは封じの塔に幽閉された。
 だが、ただひとりそれを免れた者がいる。
 独裁王の愛娘、ロゼーヌ・モルタヴィア。
 美しき少女はルーク・ジルベールに嫁ぎ王妃となった。

 モルタヴィア王城は破壊され、独占されていた水はかつてのように市民の手に戻った。
 モルタヴィアを討ったジルベールは、解放王として両国を統合し、これを統率した。
 すべての戦いを終えた騎士シルヴィアはその功績を称えられ、『青の姫君』と謳われる国王の妹を娶り、王国を立ち去った。
 また魔道士アープは戦いの中で兵士を治療していた乙女と結婚し、王国はようやく百年にも及ぶ戦いから解放され、平和な時代を迎えた。
 ……ように、見えた。

 それから約十年後。
 ルーク・ジルベールが病魔に蝕まれ、その生涯を閉じた。
 子がなかった王の跡は、王妃であるロゼーヌが継いだ。
 封じの塔に幽閉されていたはずの旧モルタヴィア王族が何者かによって暗殺された。
 解放王亡き後の玉座を奪おうとした旧ジルベール側の者の仕業として、女王は容赦なくジルベールの重臣たちを処刑した。

 独裁王は、再び君臨したのである。

 そして、それから数年の後、物語は幕を開ける。

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