真空の聲、静謐の旋律

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   β:初夜9

「俺がルカを明確に意識したのは、多分出会ってから1、2ヶ月後だ」
 ミクの背中をなでながらがくぽが語る。
「以前、ルカの協力で魔術書を読んだと言ったのを覚えているか」
「うん」
「その後、ルカに避けられてな」
「え!?」
 驚いてミクが顔を上げると、がくぽが少し渋い顔をした。
「……俺が悪かったんだ。まあ、それでしばらく会えなくなった」
 驚いたままの顔で見つめるミクの髪をなでて、
「あの頃は魔術もろくに使えなかったから、ルカが縄を下ろしてくれないと部屋には行けなくて……謝りたいのもあって、とにかく飛行魔術の練習をした」
「……ん? いきなり飛行魔術なの?」
「魔術の基礎知識はあったからな。たださすがに一月ほどかかった」
「……すごいよね?」
「必死になれば大抵のことはできるだろう」
 何でもないことのようにがくぽがさらりと言い放つ。何も知らない一年前ならいざ知らず、魔術の基礎知識を学んだミクにはそれが尋常ではないことがよく分かる。それだけがくぽがルカに会うために必死に努力したということだ。
「なんとか飛行魔術を形にしてルカに会いに行ったとき  すとんと俺の中に落ちてきたんだ。『ああ、俺はこいつが好きなんだな』と」
「出会って一目でビビビっときたりしたんじゃないんだ」
「ない。それどころかなんてムカつくクソガキかと思った。それがたったの二月足らずで、人生何が起きるかわからんものだな」
「そうだね……」
 思い返せばがくぽとミクの出会いも刃を交えるところから始まった。それが同じ褥で肌を合わせることになろうとは夢にも思わなかった。
「俺にとっては逢いたいと思ったらそれが『好き』だと言うことだ。嫌いな奴に逢いたいとは思わんだろう」
「私にも会いたいって思ったりするの?」
「お前が大聖堂に行っているときも、夜お前が階下で眠っているときも……いつもお前に逢いたい」
「え……」
 藤色の切なげな眼差しに、どきりと胸が高鳴った。ふたりの間に横たわる沈黙を、ミクの頬をなでるがくぽの熱い吐息が甘い色に変えていく。
「あ……、あの」
 声が裏返りそうになるのを必死でこらえ、
「じゃあ……『愛してる』は……?」
「命をかけて守りたい  身も心もすべて捧げるということだ」
(命をかけて……)
 どきりとした。つい先刻のときめくような胸の高鳴りではない。どこか後ろめたさを感じるような、ぎくりとした心持ちだった。
 ミクもがくぽに愛していると言った。だががくぽのために死ねるかと言われると  今すぐ答えを出すことができない。
「結構……重いね……」
「愛してるとか、そんな軽々しく言うものでもないだろう」
「そうだけど……」
「一番解りやすいのは母親だな。命がけで子供を産むんだ。それで命を落とすことだってある。それこそ究極の愛だろう」
「……うん……」
 出産そのものに立ち会ったことはないが、それがどれほど大変なものかは知っている。確かにがくぽがルカを命がけで守ろうとした以外の形でも、がくぽの言う『愛してる』はもっと身近に存在しているのだろう。
「逆に負担か?」
 責めるでもなく問うがくぽに、ミクが小さく唸った。
「私……がくぽのこと愛してるつもりなんだけど……」
 ミクが申し訳なさそうにうつむくのを見て、がくぽは気にするなと頭をなでてやる。
「好きだの愛してるだの、そんなものはすべて主観だ。人の数だけそれぞれの定義がある。俺はミクを愛しているが、だからといって俺のために命を捧げろとは言わないから心配するな」
 返す言葉を見つけられないミクは、何かを言いかけてわずかに開いた唇をそのままに  頷くこともできずがくぽを見つめることしかできない。
「ミク」
「……うん」
「お前の番だ」
「……うん?」
「俺は質問に答えた。次はミクの番だ」
「うん、え……え?」
「ミクにとっての『好き』と『愛してる』はどういう意味だ? どう違う?」
「あ……えっと……」
「ああ……迷っているところだったな。今の時点でのミクの考えでいい。結論が出ていなくても、はっきりしなくてもいい。お前の意見が聞きたい」
 がくぽの大きな手が優しく促すようにミクの頬をなでる。考えを言葉に変換するのに手間取っているミクを、急かすでもなくゆっくりとなでて静かに待つ。
「んと……。私はこの人が好きって思ったら好きってことかなあって思ってる……。それで、好きっていう言葉じゃ足りないくらいに好きになったら、それが愛してるっていうことかなあって」
「ほう」
「何だろ、何て言えばいいんだろう。『好き』っていう気持ちが好きひとつぶんだとしたら、『愛してる』は好きが百くらい? なのかなあ?」
 困ったように見上げてくるミクに、
「俺には『好き』がいくつ分だ?」
 がくぽが少し意地悪く笑う。
「そんなの数え切れない……あ。他にもあるよ、『好き』と『愛してる』の違い」
「ほう?」
「『愛してる』は、触れたいとか触れてほしいっていう気持ちが入ってるの」
「『好き』には触れ合うことは含まれないのか」
「んんー……手を繋ぐくらいは入るかなあ。そこから先は『好き』を越えてると思う」
 うんうん唸りながら言葉をひねり出すミクを眺めていたがくぽだったが、
「お前が初めて『好き』を越えたのはいつだ?」
 なで続けていた手を止める。
「えっ? え……いつだろ……いつだっけ……?」
 改めて問われて思い返す。手を繋ぐ以上の触れ合いをしたいと思ったのはいつだっただろう。そもそもがくぽのことばかり考えるようになったのはいつだったのかさえ思い出せない。がくぽと一緒に暮らし始めたとき  あの森に通ったとき  
「あ……」
 その手で触れて欲しいと思った相手は、ミクの目の前で髪の一筋すら残さず塵となった。自分のことを人形と言った悲しい少年は、とてもきれいな手をしていた。その手に触れられたいと思った。
 出会ってから別れるまで、丸一日も経っていない刹那の想い。積み重ねた時間よりも遙かに尊い刹那だった。
「ミク。誰を思い出した?」
 遠い目をしたミクの瞳に違う男の影を見たがくぽは、ぎりぎりと胸が締め付けられるのを感じながらもそうとは悟られぬように、どこか楽しげな声を装った。
「えっ? あ、違うの……。そうじゃなくて……私の初恋っていつだったのかなって思い出してたんだけど、あれって初恋なのかなあって考えてて……」
 ミクの視線が泳ぐ。
「ほう。興味深いな。聞かせてもらおうか」
「え、え? 大したことじゃないよ?」
 誤魔化せたかと安堵したミクの口元が緩んだ。ミクが話を逸らそうとしたことも、それが何故なのかも手に取るように解ってしまったがくぽは、何も気づいていないフリをしてミクの話に乗った。
「聞きたい」
「えー……別に私だけじゃなくて歌唱隊のみんなもそうなんだけど、カイト様に憧れてて、見かける度にみんなできゃあきゃあやってたなあって……」
「……カイト様?」
「あ! 前に話したことあるよね? 私が森に行く前に剣術を教えてくれた人。騎士団長なの」
「ああ、前に言っていた三ヶ月間みっちり付きっきりで手取り足取り剣術を教えてくれた師匠のことか」
「いろいろと語弊がある言い方だなあ」
「お前が以前言っていたことを要約するとそういうことだろう」
 言いながら確信する。ミクが先ほど思い出したのは騎士団長ではない。それが初恋かもしれないというのなら、ミクが思い出した相手はそれ以降に出会っているということだ。
 ミクが愛していると言ってくれたことを疑うつもりは毛頭ないが、ミクの心の中に他の男の影があるというだけで心がざわつく。叶うものならミクの心からその部分だけ引きちぎってかなぐり捨ててしまいたいくらいだった。
 一瞬血が逆流するのではないかという激情にかられたが、なんとか制しきってがくぽは微笑んだ。
「それで? そのカイト様に触ってもらったのか」
「は!? そんな訳ないでしょう!? 何言ってるの!?」
「じゃあ、俺には?」
  !」
「俺には触れたいとか、触れてほしいとか思うのか」
「あ……」
 まっすぐに見つめられ、ミクの頬がみるみる赤く染まっていく。
「うん……」
 恋心を打ち明けようとする少女のようにうつむいて、恥じらいながら頷いた。昨夜の女の顔を見せたミクも美しかったが、少女の顔を見せるミクもこの上なく可愛らしくて愛おしい。
 抱きしめてその柔らかな唇を奪いたいという衝動を抑えて、がくぽは何かを言いたげにミクがもじもじする様子を楽しげに眺めている。
「あの……私たち、恋人同士だよね?」
「ああ」
「じゃあ、その……私、がくぽに触ってもいいよね?」
「勿論だ。お手柔らかに頼む」
 少し潤んだ瞳で上目遣いで見つめるミクに、がくぽが優しく微笑んだ。どうぞお好きにとばかりに両手を広げる。
 しばらく考え込んだミクが両手でがくぽの頬を包んだ。優しくなでて頬をすべり、藤色の髪に隠れた耳をそっとつまむ。
「……面白いか?」
「ん……この耳で私の声を聞いてるんだね」
「ああ」
「私が聞いてる自分の声と、がくぽが聞いてる私の声ってどう違うのかな」
「さあ、どうだろうな」
 ミクが身体を起こしてがくぽの耳元に唇を寄せる。
「あーあーあー。聞こえますかー?」
「あーあーあー。聞こえますよー」
 ミクを真似てがくぽが返す。予想外の反応に驚いて顔を見合わせれば、一瞬の間をおいて同時に小さく噴き出した。
「がくぽ、変なの」
「お前ほどじゃない」
 ミクの頭をくしゃりとなでる。がくぽの耳から手を離すと、再度耳元に唇を寄せて  ふっと息を吹きかけた。
  ッ!?」
 びくりと身体を震わせたがくぽを見て、ミクが満足そうに笑う。
「会話ってこういうの?」
 がくぽが言葉を返すより早くミクの唇が赤くなった耳朶を食み、追い打ちをかけるようにそっと舌を忍ばせる。
「ミク……、お手柔らかに頼むと言ったばかりだろう」
「がくぽは楽しい?」
「うん?」
「楽しい会話をしたいって言ったじゃない。がくぽは今楽しい?」
 ミクに顔をのぞき込まれ  目が眩むほどの笑顔に一瞬息を飲んだ。吐息が絡む距離に輝く笑顔がある。それだけでこんなにも心が満たされることに驚きながら、
「ああ。楽しくて仕方がない」
「よかった。私も今、楽しい」
 花よりもなお美しい笑顔に心を奪われた。
 ミクの指先ががくぽの首筋に触れて、するりと鎖骨へと滑り落ちる。迷うように何度か鎖骨をなでてから、第一ボタンだけ外されたシャツの上を通って胸板に触れる。シャツ越しでもわかる頼もしい胸がどくんどくんと脈打つのが伝わってくる。
「がくぽはさ……いつ私のことを『好き』だって意識したの?」
 規則正しい拍動を確かめるように手のひらで触れる。
「いつからなんだろうな。気がついたのは聖歌祭のときだ」
「この前の? 三ヶ月くらい前?」
「はっきりと自覚したのはそうだな」
 がくぽが胸の第二ボタンを外してミクの手を誘う。
「聖歌祭のときって来てくれたっけ?」
「行くには行ったが、大聖堂には入れなかった。何なんだあの人だかりは……どこから湧いた」
「王国の人だけじゃないもの、いろんな国から観光客が来るんだから。すごい人だって言ったじゃない。私ソロで歌ったのに……あれ? でも見てないんだよね?」
 苦戦しながらもミクが固いボタンをひとつずつ外していく。
「見てはいないが声は聞こえた。どんな表情で歌っているのかまで目に映るようだった……」
 大聖堂から漏れ聞こえてくるミクの声に誰もが聞き惚れていた。がくぽもその内のひとりだったが、ミクの歌が終わり割れんばかりの拍手が沸き上がったとき  我に返ったがくぽは急にミクが遠くへ行ってしまったような錯覚に陥った。自分の知っているミクと、大聖堂に集まった人々が見ているミクはあまりにも距離が違いすぎて、急にミクが手の届かないところへ行ってしまったかのように感じられた。
 自分だけのものだと思っていた宝物が、実は公共のものであったと思い知らされるような焦燥感。その感覚に覚えがあった。
 かつて奇跡が起きたあの日  ルカと太陽の祝福の下で声を重ねたあの日と同じだった。がくぽに背を向けて歩き出したルカは、彼だけのルカではなかった。そこにいるのはすべての人に平等に歌を捧げる聖女だった。
 彼の手の届くところにいるような人ではなかった。
 それまでがくぽがだましだまし押さえ込んでいた独占欲が、一気に弾けた瞬間だった。
(俺は独り占めしたかったんだ……)
 すべてのボタンを外しきったミクががくぽを見上げた。初めてのおつかいを無事にこなした子供のような無邪気な笑顔がそこにある。
 その笑顔を自分だけのものにしたかった。
「あのとき……ミクを抱きしめたかった。すぐに逢いに行きたかった。人混みをかき分けてお前のところに駆けつけたかった。本当にどうしようもないほどに……逢いたかった」
 切なげな声に、ミクががくぽを抱きしめた。露わになった胸板に頬をすり寄せて、細い腕でぎゅうっと抱きしめる。小さな温もりにこんなにも胸を突き動かされるものなのかと新鮮な驚きを感じながら、がくぽもミクを優しく抱きしめた。
「がくぽは三ヶ月間自問自答してたの?」
 ミクががくぽの胸板に口づける。
「そうだ」
「その間に……その、私のこと……、欲しい、とか思ったりしなかったの?」
「何度思ったかわからないくらいだ」
「本当? 全然気づかなかった」
 拗ねるようにミクの指先が胸板に恨み言を綴っていく。
「抑えてたんだから当たり前だろう。自分の気持ちに確信も持てない内にお前に知られたくなかった」
「そういうものなの?」
「俺にとってはな」
「んと……そういうのって辛くないの?」
「辛いに決まってる。極限状態の空腹時に目の前にご馳走を並べられているのに、食べることを許されない状況だと言えば解りやすいか?」
 ミクの指先がびくりと止まる。
「あああああ……。なんかごめんなさい……」
「何で謝る」
「なんか、なんとなく……。私だったらお腹すきすぎてどうにかなっちゃいそう……」
「お前は色気より食い気だな。まあ……おかげでようやく食べられる状況になったらがっつき過ぎてあの有様だ。すまない」
「……え? なに?」
「だから……昨夜の話だ。あのとき俺は極限状態の空腹だった。言い訳にしかならんが、お前という甘い果実を前にして冷静ではいられなかった。そのせいで苦しませてしまった。……本当にすまないと……」
 胸板から首筋、顎へと指をすべらせて、ミクはがくぽの唇をその指で塞いだ。
「それってお腹空いても他のものをつまみ食いしなかったってことだよね? だったらいいよ。ちゃんと私をおいしく食べてくれたなら」
 指先で左頬をぷすりと刺してから、ミクは何かを言いかけたがくぽの唇に自分のそれを重ねた。
「ねえ、私おいしかった?」
 がくぽの言葉を誘うようにミクの指が唇をなぞれば、
「他のものを食べる気が失せるほどにな」
 がくぽの唇がミクの指先を包んで小さく吸った。指先に触れる舌の感触に、ミクが小さく吐息をもらす。
「あ……ダメ、離して……」
 目の前で意地悪く笑ったがくぽが、口に含んだままの指先を甘噛みする。
「や……ダメ……。まだ触り足りないんだからぁ……」
「なんだ。恋人同士なのに俺から触れるのはダメなのか」
「んと……ダメじゃなくて……もうちょっと待ってて……」
「これ以上空腹に耐えろと」
「昨日お召し上がりになったのは何?」
「もう消化した」
「えぇ〜……」
 ミクが頬を膨らませて唇を尖らせた。
「今ならいくらでも食える気がする」
「がくぽって健啖家だったんだ……」
「食べてもいいか?」
「う〜……。どうなのかな……」
 困り果てた顔をして、ミクが解放された指先で再びがくぽの首筋をなぞる。
「ミク」
「んー」
「まだ途中だ」
「うん?」
「お前はいつ俺のことを意識した?」
「うん……それなんだけどね……」
 がくぽに背中を優しくなでられながら、ミクは再び胸板に手を触れる。手のひらを通して伝わってくる温もりに心の奥までくすぐられるようだった。
「あんまりはっきり覚えてなくて……。いつなのかな……」
 ルカを失ったときのがくぽの吐露した絶望の叫びは、今もミクの耳から離れない。
 あんな悲しい顔をさせたい訳じゃなかった。
 そんな辛い想いをさせたい訳じゃなかった。
 思い描いていたのは、ふたりが二百年の時を超えて互いの手を取る姿だった。
 打ちひしがれたがくぽの姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。愛しい人の最期の言葉を聞くことも許されず、その腕をすり抜けていくのをただ見守ることしかできない辛さを  ミクは知っていた。
 愛する人に刃を向け、抱きしめることも叶わずに、何もすることもできず  愛しい存在が失われていくのを見守ることしかできない辛さを、ミクもその数刻前に身を持って思い知らされていた。
 言ってみれば同じ痛みと傷を抱えた者同士だった。最初はミクはがくぽに傷ついた自分の姿を見ていたのかもしれない。
 がくぽを癒すことができれば、自分の心の傷も癒えるかもしれない  
 そんな希望があったかもしれない。
 ミクは月に一度、森へと通った。もし自分に聖女のようにすべてを癒せる力があったならとどれほど思ったか解らない。半年通ってもがくぽは自分の殻に閉じこもったままだった。言葉もなく、ミクを見ることもなく、身じろぎひとつしないままで  
 聖女との戦いの前、がくぽは信じられないほど優しい声でミクに声をかけた。
 無理はするな。
 あの優しい声をもう一度聞きたいと思った。
 そう言ったときのがくぽの表情を知りたかった。
 できれば  彼の歌声を聞きたいと思った。
 気がついたときにはがくぽのことばかり考えるようになっていた。花の苗を植えたのは、聖女の髪の色に似た花が彼の心を癒してくれるようにという願いと、自分のことを忘れないでいて欲しいという切ない想いだった。
 もうその頃には自分の想いに気づいていた。レンへの想いがありながら  という気持ちもあったが、それ以上にどうにもならないほどに惹きつけられていた。
 ただそれをがくぽには伝えようとは思わない。ミクが自分の想いに気づいたとき  身を焦がすほどにがくぽへの想いを募らせていたとき、彼は深い絶望の淵にいたからだ。どれほど辛い思いをしているか解っているくせに、自分はそんな浮かれた気持ちでいたなどとは知られたくなかった。
「声がね……聞きたかったの」
 がくぽの胸に優しく口づけながらミクが囁く。
「あなたの声が聞きたかった……」
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