緑影騎士−聖騎士の帰還−

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11.

 現在銀の鎧を貸与されている翡翠騎士は六名。騎士団長と副団長は表舞台に立つことが多いため、一般の市民でも顔くらいは覚えていたし、反乱軍となれば名前までは知っている。だが他の四名はいることは知っていても、その実力や名前まではほとんどの者が知らなかった。
 王宮に入ってすぐの広間に一般兵とともに現れた二名の翡翠騎士は、名も知らぬ者だった。公開処刑が行われる度に姿は現すが、顔までは覚えていない。
「邪魔よ、どいて!!」
 問答無用でエリスが解き放ったのは真空の刃がすべてを切り裂く魔法だった。彼女から放たれた風の刃は違うことなく兵士たちに襲いかかり、その青銅の或いは革の鎧を切り裂いてそこから赤い飛沫を吸い出した。まともに食らった者は為す術もなく呻き声をあげることもないままに床に倒れこみ、そうでない者もかすっただけにせよ流血は避けられなかった。
 これが魔法   
 ここにいるほとんどの者は魔法をその目で見たことがない。反乱軍はエリスやルティナの回復魔法を受けているが、こうした攻撃魔法はエリスが修得していない、ということで見てはいなかった。女王軍には魔法を操るものはいなかったし、三英雄の金色の魔道士アープも終戦以降は攻撃魔法を唱えることはほとんどなかった。
 先の戦いが終わってから初めて殺傷目的で使われたのが、今エリスの唱えた魔法なのだ。その威力に、恐ろしさに、女王軍も反乱軍も思わず息を飲んだ。女王軍にしてみればこんな年端もいかぬ小娘が、反乱軍にしてみればあのエリスが、こんな魔法を操るなんて。実兄ディーンでさえもぞっとしたくらいだった。ただその幼馴染リグル・シルヴィアだけが顔色を変えることもなく剣を構えて、まだ立っている兵士たちに向かっていった。
「そうか、アープの……!」
「そんな……ッ」
 一般兵よりも多少は遠かったが、充分魔法の圏内に入っていたはずの翡翠騎士たちは、いくらか衝撃を受けたようではあったが、鎧に損傷はなく、どこからも血を流している様子はない。
 魔法が効かない!?
 そこまで頭が回ったのは当のエリスとリグルだけだったが、翡翠騎士健在は残る兵士たちを鼓舞した。それぞれに傷を負いながらも迫り来る黒髪の剣士に戦いを挑んでいく。
「処刑のときに女王陛下の御前を炎で遮ったのはお前か」
 剣を抜いて歩み寄る翡翠騎士を睨みつけていたエリスがはっとした。
(そうだ、銀の鎧……)
 翡翠騎士にだけ貸与される、翡翠を埋め込んだ銀色の鎧。その鎧に父リーヴ・アープが対魔法の術を施していたとしたら。
「兄さん、翡翠騎士には魔法は効かないわ。せいぜい足止めが限度よ」
 真空の刃で傷つけることはできなくても、風圧で吹き飛ばすことはできるかもしれない。
「わかった、騎士の体勢を崩せるか?」
「任せて」
 魔法という圧倒的な力を目の当たりにして呆然としていたディーンだったが、冷静な妹の言葉に我に返り剣を構え直す。
「風よ……集え!」
 渦巻いた風がエリスの合図で突風となって翡翠騎士にぶつかった。小さな家ひとつくらいなら吹き飛ばせるであろう風圧に、さしもの騎士といえども耐え切れず、剣を握り締めたまま吹き飛ばされ、壁にしたたかに背を打ちつけて床に倒れこんだ。
「今のうちに」
 一般兵と戦うリグルの加勢と翡翠騎士に向かう者に別れ、反乱軍は雪崩れかかった。重傷を負った兵士たちと無傷の反乱軍では士気がまるで違っていた。訓練され戦うことに関しては専門の兵士たちよりも、戦いの素人である反乱軍の方が勢いがあり、またそれは留めようのないものであった。
 まだ体勢を整えていない翡翠騎士にまっすぐ向かいながら、ディーンはこんなふうにエリスと共に戦う日が来ることに驚きつつ、どこかで頼もしく思っていた。ただ守られるだけの自分が辛かったというのなら、彼女にとって現在ほど自分を誇りに思えるときはないのだろう。それで彼女の苦しみがひとつ減るのなら、彼にとってもまたそれは喜ばしいことなのだ。
「うおおおッ!」
 叫びながらリグルが剣をひと振りする度に兵士が数人ずつ床に倒れていった。それを横目で見ながら翡翠騎士の元に駆けつけたディーンは、まだ衝撃から立ち直っていない騎士に容赦なく斬りつけた。呻く余裕さえ与えられずに、次から次へと反乱軍の者から剣撃を殴打を受け、やがて動くことはなくなった。翡翠騎士がいくら王国最強の剣士たちだと言っても、不意打ちを喰らって体勢を崩されたところへ大勢からの攻撃を受ければ、為す術はないのだ。
「おのれ!」
 立ち位置がよかったのかエリスの魔法をそれほど強く受けなかったらしいもうひとりの翡翠騎士が、果敢に反撃を試みていた。仲間を討たれたことにより激昂している騎士は、さながら狂戦士(バーサーカー)のようであった。
「ディーン!」
 ひとりの翡翠騎士を打ち倒し、ほんの一瞬気が緩んだのであろう剣を下げたディーンの背後に、残る騎士が襲いかかった。リグルの叫びにディーンが振り返るが、彼自身が剣を構え直すにも、付近の仲間が間に入って戦うにも、エリスが新たな魔法を唱えるのにも、いずれにせよ間に合わない。反乱軍の者の助けもあって一般兵を思ったよりも早く倒せたリグルは、最初の一撃をディーンがかわしてくれることを祈りながら幼馴染の元へ駆け出した。
 振り返ったディーンの目に映ったのは、すぐ間近に迫った翡翠騎士だった。その憤怒の形相も胸に飾られた翡翠も銀の鎧も目に入らず、ただ己の胸を貫くであろう剣先だけが映っていた。
 避けなければと思うのに、眼差しは騎士の剣先に凍りついたまま身体が動かなかった。それはわずか数秒にも満たない瞬間だったはずなのだが、まるで何時間にも感じられる。徐々に、徐々に迫りくる剣先をずっと睨んでいたディーンだったが、それがふと動きを止めた。一瞬自分が永遠に止まったのかと思ったのだが、目前に剣先があるということはそうではないらしい。何が起きたのか分からずに呆然とするディーンを正気に戻したのは、大切な仲間の声だった。
「おいおい危ねえな、しっかりしてくれよリーダー」
「アレク!」
「……アレク……」
 時間の流れがようやく正常に戻ったディーンは、すぐ目の前で崩れ落ちる騎士と、その向こうにナイフを数本手に持ったアレクが立っているのを認識して、正確な状況を把握した。別行動で王宮の裏側から侵入したアレクの役目は女王軍を撹乱すること。王宮を囲う城壁の何個所かを火薬を使って爆破し、女王軍を分散させた上で窓から侵入し、正面に配置されているであろう兵士をディーンたちと挟み撃ちにする予定だったのだ。だが城壁を爆破しても兵士たちは姿を見せず、肩透かしをくらいながらも少数の仲間と予定通り王宮に侵入し、罠や待ち伏せの可能性を考えて慎重に進んでいたのだがそれらもないまま正面に着き、ディーンの危機に直面したのだ。アレクの所持していた武器が投げつけ用のナイフだったので、咄嗟に騎士めがけて投げつけたのだ。
 憤怒の形相のまま永遠に動かなくなった騎士の首の後ろ側に、ナイフが深々と刺さっていた。人間のわずかな急所を違うことなく射抜いたのだ。
「アレクさん!」
「エリス、無事だったんだな」
 アレクは封じの塔を経由したディーンたちとは違い、直接王宮の裏側に回っていた。ここで初めてエリスの無事な姿を見たアレクは、乱れた髪に驚きながらも安堵したようだった。それから周囲を見回して仲間たちの無事を確認し、そして血に濡れた剣を手にした黒髪の男を視界に映して、一瞬睨みつけてすぐに視線を逸らした。
「ディーン。予定通り事を起こしたが、裏には兵士はひとりも来なかったぜ? いったいどうなってやがる」
「さあな。昼間にそれだけ戦力を失ったのか、正面突破しかないと踏んだのか……確かにこっちの方には翡翠騎士ふたりまで待ち構えてたからな」
 ディーンとともに周囲を見回したアレクは、あたりに築かれた屍の山にぞっとした。翡翠騎士ふたりに三十弱の一般兵が骸となって転がっていた。一般兵にいたってはいずれも鎧ごと切り裂かれ、よく磨かれた床に血の絨毯が敷かれている。そしてふとした疑問が湧き出てきた。
「ベルティーナ様はどうした? 何でエリスが一緒にいるんだ?」
「……エリスが私を脅迫したんだ。連れて行けってね」
 あえてベルティーナのことは流したまま、ディーンは答えた。穏やかではない言葉を聞いて目でエリスを探したアレクが見たのは、戦いによって傷を受けた仲間たちに治癒の魔法を施している姿だった。
「……とても考えられねえな」
 自分のことが話題になっていると気づいたのかどうか、治療を終えたエリスがふたりの方に向かってきた。その途中に剣を収めることもなく沈黙したまま立ち尽くしていたリグルに何事か話しかけた。ディーンたちの場所からそう離れているわけではないのだが、小声だったため内容まではわからない。ただ表情もないままだったリグルが微笑んだところを見ると、優しい言葉だったのではなかろうか。
「さっさと行こうぜ」
 不愉快そうにリグル・シルヴィアから視線を外したアレクが、ディーンの肩を叩いて先を促した。まだ戦いは始まったばかりなのだ。女王にたどり着くまでに倒さなければならない翡翠騎士はまだ四人いるのだ。
 それは正論なのだが、アレクが何を思ったのかすぐに見抜いたらしいディーンは、つい小さく吹き出してしまった。
「……確かにのんびりしている場合じゃないな。先を急ごう」


 ディーン、リグル、アレク、少し後にエリスを先頭に王宮内を進む反乱軍は現在二十人弱。アレクたち5人の撹乱組とディーンたち正面突破組だ。反乱軍そのものにはもっと人数がいたのだが、先の戦いで死傷者が出たため、満足に戦える者だけが最終決戦に挑むことになった。反乱軍同様、相当の数の兵士を失った女王軍だが、それでもどれだけ兵士がいるかは分からなかったし、訓練された兵士ともともと一般人の反乱軍では個々の戦力が違う。正面から戦いを挑む前に女王側の兵力を分散させる予定だったのだが、女王は最初から正面突破に対する兵士配置しかしていなかったようだ。正面入り口の前と内、それぞれに兵士はいたが進む反乱軍の前にはそれから兵士たちが駆けつける様子もない。
「……静かだな」
 誰に言うでもなく、リグルが独り呟いた。
 正面の入り口から廊下を進み、二階へと上がる階段を目指して歩いているが、罠が仕掛けられている様子も兵士が駆けつけてくる足音が聞こえてくる訳でもない。緊張に沈黙する反乱軍の押し殺した吐息だけが彼らの周囲につきまとっていた。
「案外、昼間に相当な兵士を失ったのかもしれねえな」
 反乱軍の人数では抑えきれないであろう兵士の数を想定して撹乱を目論んだアレクとしては、これは異常事態だった。ただこの状況を本当に戦力不足ととるか罠であるととるか、それは慎重を極めなければならないのだが、結論を下すだけの時間は許されていない。罠であろうと進むしかないのだ。
「油断は禁物だがな」
 呟いたディーンの前に、大きな階段があった。よく磨かれたそこにも反乱軍以外の人の気配はない。
「行くか」
「……兄さん」
 進みかけたディーンの左腕を、エリスが強く掴んだ。何事かと振り返り一歩戻ったディーンのすぐ背後に、鋭い風切音が鳴いた。
 ヒョォ…ン。
 壁に掛けられた燭台の裏に仕掛けられていたクロス・ボウから放たれた矢が、数瞬前にディーンの立っていた場所の空気を引き裂き、反対側の壁に突き刺さった。それを合図に反乱軍が通ってきた廊下に矢の雨が降り注いだ。それよりさらに後方から、どこに隠れていたのか一般兵が十人ほど、反乱軍に向けて矢を放ってきた。
「なっ……どこに隠れてやがった!」
「マズイぞ、ここはまだ向こうの矢の射程範囲だ、先に進もう! 奴らも追ってはこられまい」
 降り注ぐ矢に遮られて一般兵たちを討ちに行くことはできないが、向こうがこちらを追うこともできないはずだ。矢の雨が降り止むまで待ってまで雑兵を討ちに行く必要もない。先に進んでしまえばこちらのものだ。もちろん罠には気をつけなければならないが……
「だめ、行っちゃだめ!!」
「しかしエリス、他に道が……」
 その場に留まろうとするエリスを強制連行するように、或いはかばうように進んだが、その瞬間の衝撃に、何が起きたのかすぐには理解できなかった。



 反乱軍の真上から、シャンデリアが降ってきた。



 ガシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 その衝撃音は彼らの上で、横で、下で、とにかく爆発するように襲い掛かってきた。シャンデリアに灯された蝋燭の明かりがより美しく廊下を階段を照らすように、たくさん取り付けられていたガラスの飾りが床に叩きつけられ割れ飛び散った。金具は落下の衝撃でひん曲がり、床に転がった蝋燭は落下するときにすでに消えていたのか煙をわずかにあげているだけだった。
「ふん……小賢しい蛆虫どもが、さすがにこれには適わなかったようだな」
 階段の上から降りてきたふたりの翡翠騎士が、シャンデリアを失ったことで暗くなったその周囲をランプで照らし出した。美しかったシャンデリアは見るも無残な姿を晒し、割れたガラスの破片がランプの明かりを受けてきらきらと輝いた。
「死体を調べろ、黒髪は必ず連れて来いとの陛下の命令を忘れたか」
 ランプの明かりはそれほど強くない。すぐ間近まで行かないと黒髪を探すのは困難だった。
「……おい」
 階段の前に散乱するガラスの破片のひとつを踏みつけたのか、小さな音がした。ここまで近くに来て再びシャンデリアを照らしたとき、それは異様な輝きを帯びていた。
 ガラスは粉々に砕けた。金具は折れ曲がっている。そんな中で、強く眩しく、すらりと輝く銀色の直線の輝きは何だというのか   
「誉れ高き翡翠騎士が敵にシャンデリアを落とすとは、随分と切羽詰まってるみたいだな」
 淡いランプの光でも眩しく照らし返すは直刃の剣。
 それを構えるのは、白いマントを翻す黒髪の青年。
「そんな馬鹿な! 確かにシャンデリアは直撃したはず……!」
 シャンデリアが彼らの頭上に降ってくる直前、誰よりも早く気づいたリグルが剣でそれを両断したのだ。先に倒した翡翠騎士から剣を奪っていなければ、一般兵の剣ではそれは不可能であったかもしれない。幸運にもシャンデリアは真っ二つに切り裂かれ、彼らから逸れはしたがそれでも衝撃を受けずにすむ範囲ではなかった。リグルよりほんのわずかだけ遅れて気づいたエリスが咄嗟に自分を中心とする守護結界を唱え、彼女をかばうようにして移動した反乱軍全員をその効力圏内に収めて発動したのだ。
(せ……成功してよかった……)
 辺りに散らばるシャンデリアの破片を改めて見たエリスはひとり思った。守護結界は自分ひとりならいざ知らず、範囲が広がれば広がるほどに成功率が低くなる。ましてあんな咄嗟に唱えたものが成功するとは唱えた本人も思ってはいなかったのだ。
「シャンデリアが直撃したから、自分たちは戦わずにすむと……安全だとでも思ったか?」
 冷たく響くシルヴィアの言葉は翡翠騎士たちをゾッとさせた。騎士としての誇りを傷つけられた憤りよりも、図星を言い当てられた怒りよりも、それが……その言葉が翡翠騎士団長のそれに聞こえたのだ。
「それでも翡翠騎士か……!」
 かつて父ウュリア・シルヴィアが勤め、現在ラスフィール・アルシオーネが所属している翡翠騎士団に、こんな恥知らずがいることがすでにふたりへの辱めであるようで、リグルには我慢がならなかった。今にも吹き出そうな怒りは彼の中に流れるシルヴィアの騎士の血がそうさせるのか。
「……リグル」
 銀の鎧を纏った翡翠騎士ふたり。だが恐らくはそれを貸与されるに値しないであろう怯懦者。決着はすぐに、着く。
「さっさと行けよ」
 思いがけない言葉に、リグルは翡翠騎士を睨みつけたまま動きを止め、ディーンは何事かと仲間を振り返った。
「こんな奴ら、俺たちだけで充分だぜ」
「あんたたちが手を下すまでもねえよ」
 自分たちは戦わずにすむと思ったのか。
 リグルにそう詰問されたとき、翡翠騎士たちが図星を指されたのであろうことは、彼らにも伝わったのだ。反乱軍は女王軍に比べて圧倒的にまず数が少なかったし、個々の戦力が弱かった。だから罠を仕掛けたり虚をつくこともしてきたが、それはいつだって誇りを持ってしてきた『戦い』だ。それをこの目前にいる翡翠騎士たちは、現在は女王側についているとはいえ、ジルベールの財産である、誇りである銀の鎧を貸与されながら当人たちにはその誇りのかけらすらないのだ。
 そんなことがあってたまるか。
 そしてまた、真の翡翠騎士たる騎士団長、副団長を後に控えたディーンたちの手をこんな輩に煩わせるのはあまりにも納得がいかなかった。
「俺らにもたまには格好つけさせろよ」
 そんな軽口を叩きながら、そっとディーンの背を押した。
「あ……ああ、すまない皆」
「そのかわり、あとは頼むぜ」
 守護結界を解いたエリスが、ふわりと魔法の明かりを出した。それがシャンデリアが本来あるべきであった位置に飛び、周囲を明るく照らし出す。
「早く行けよディーン、ここは任せとけって」
 そう言って笑ったアレクの背を、誰かが押した。
「何言ってやがる、お前もだよ」
 ディーンのすぐ後ろを行くエリスを守るようにアレクも進んだ。そして、ずっと騎士たちを睨みつけていたリグルだったが、ふと背を押されてハッと我に返った。
「あんたもだよ」
 それが誰だったのかは分からない。振り返り反乱軍を窺ってみても、誰も何も言いはしない。
「……ありがとう」
 その言葉が伝わったかどうかは分からないが、リグルは呟いてすぐにアレクの後に続いた。
 国を捨てたと、黒髪の異端であると、直に言われもしたし常にそんな目で見られていた。けれど、そのたった一言でようやく仲間と認められた気がするのだ。
『あんたもだよ』
 それが、嬉しかった。

 ディーン、エリス、アレク、そしてリグルは翡翠騎士たちのすぐ横を通り過ぎて階段を上っていったが、騎士たちは彼らをただ見送っただけだった。三英雄の血に連なる者をわざわざ止めてまで戦うよりも、数は多いが普通の市民であることには変わりない反乱軍と戦ったほうが勝機があると踏んだのか否か。

 (ときの声を階段の下に聞きながら、一行は先を急いだ。

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